<コロナ禍で悪化の一途をたどるアジア人差別>
被害を受けた那須さんは、言葉では決して言い表せないほど辛かったことと思う。体の痛みに加えて、悲しみや怒り、恐怖などの深刻な精神的苦痛、信頼していた世界が音を立てて崩れてしまうような強い不信感など、想像を絶するものがあるだろう。1日も早い回復をお祈りすると同時に、リベラルな考え方を持つ人や親日家の多いシアトルですら、こうしたヘイトクライムの犠牲者になるのだという現状に戦慄を覚える。より保守的で閉鎖的な州では、状況はもっと悲惨なことになっており、日本人を含めたアジア人はさらに肩身の狭い思いをしていると思うと心苦しくなる。

これまでは、アジア系市民に対する偏見や嫌がらせの話を聞いたりニュースを見たりしても、不安はあったがこれほど強い危機感を感じることはなかった。しかし、反アジア的な感情が日を追うごとに強くなってくるのを肌感覚で感じる今、自分がヘイトクライムの標的にいつされてもおかしくはないという恐怖がひたひたと押し寄せてくる。那須さんに起こった事は、私たちの誰にも起こりうることなのだ。

ワシントン州のジェイ・インスリー州知事は、この凶悪事件に対して非難声明を出し、「ワシントン州は、すべての人が受け入れられ安全だと感じられる場所。人々を暖かく迎え入れる州であり、憎悪と差別には100%の不寛容を貫いています。我々すべては、ワシントン州および国全体で増え続けているアジア系市民に対するヘイトクライムと暴力を非難すべきであり、絶対に容認すべきではありません」と訴えている。

こうした声明はありがたいが、アジア系市民が感じている「次は自分かもしれない」という恐怖心は、具体策なき声明だけではけっして消えることはないだろう。

アメリカでのアジア系市民に対するヘイトクライムは、コロナ禍が始まってからのこの一年で急増した。カリフォルニア州立大学サンバナディーノ校「憎悪・過激思想研究センター」の調査によると、全米の主要な都市で2020年に起こったヘイトクライムは全体では前年比で7%減少したものの、アジア系市民に対するヘイトクライムの件数は前年比で2.5倍に跳ね上がったとのこと。とくにアジア人の人口の多いニューヨーク、ロスアンジェルス、ボストンを中心に多くの被害が報告されている

アジア系の人権団体「ストップ・AAPI・ヘイト」では、昨年3月19日〜今年2月28日の間に約3,800件のヘイトクライムの報告がなされたとしている。「ウィルスは国へ帰れ!」、「犬を食べるから(自分の犬が)怖がっている」、「中国ウィルス、地獄に堕ちろ」、「売春婦」などの差別発言や暴言を吐かれたり、見知らぬ人だけではなく、近所の知り合いや職場の人たち、学校のクラスメートから差別されたり、目の前まで近づかれて咳をされたり、施設でサービスを拒否されたり無視されたりなど、さまざまな事件が報告されている