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 石炭をばはや積み果てつ。中等室の卓のほとりはいと静かにて、熾熱灯の光の晴れがましきもいたづらなり。今宵は夜ごとにここに集ひ来る骨牌仲間もホテルに宿りて、船に残れるは余一人のみなれば。五年前のことなりしが、平生の望み足りて、洋行の官命をかうむり、このセイゴンの港まで来し頃は、目に見るもの、耳に聞くもの、一つとして新たならぬはなく、筆に任せて書き記しつる紀行文、日ごとに幾千言をかなしけん、当時の新聞に載せられて、世の人にもてはやされしかど、今日になりて思へば、幼き思想、身の程知らぬ放言、さらぬも尋常の動植金石、さては風俗などをさへ珍しげに記ししを、心ある人はいかにか見けん。こたびは途に上りしとき、日記ものせんとて買ひし冊子もまだ白紙のままなるは、独逸にて物学びせし間に、一種のニル・アドミラリイの気象をや養ひ得たりけん、あらず、これには別に故あり。